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東京地方裁判所 昭和37年(ヲ)337号 決定 1963年11月29日

決   定

東京都葛飾区上千葉町四四番地

申立人

是垣七郎

ほか三人

右四名訴訟代理人弁護士

岡部勇二

東京都品川区大井南浜川町一八五四番地

相手方

田中清堯

右訴訟代理人弁護士

天野亮一

主文

東京地方裁判所昭和三五年(ヨ)第三三三二号仮処分決定正本に基き東京地方裁判所執行吏が昭和三五年一二月二二日になした別紙物件目録記載建物(一)(二)に対する申立人らの使用を排除した執行処分はこれを許さない。

訴訟費用は相手方の負担とする。

事実および理由

一、申立人らは主文同旨の裁判を求め、その理由として次のとおり主張する。

(一)  別紙物件目録記載建物(一)(二)(以下本件建物という)は申立外田中幸夫こと金仁玉の所有であり、申立人是垣七郎、同金田進才は本件建物(一)を、同鈴木義男、同高原寛之は本件建物(二)を右金仁玉から賃借して居住していたものである。

(二)  相手方は申立人らを債務者として本件建物につき、いわゆる占有移転禁止の仮処分を申請し、昭和三五年五月二七日に東京地方裁判所昭和三五年(ヨ)第三三三二号事件仮処分決定を得て、同年五月三一日その執行をなした。

(三)  昭和三五年一二月二二日に、東京地方裁判所執行吏浅野光重は、現状の変更を理由に本件建物に対する申立人らの使用を取り消し申立人らの占有を解き執行吏の直接占有に移すいわゆる点検排除の執行処分をなし、申立人らの占有物件本件建物外に搬出し、出入口を閑鎖して釘付し、申立人らの占有使用を不可能にした。

(四)  しかし、申立人らは不在時の留守番として申立外白川太郎を同居させていただけであるから、現状の変更をしたのではない。仮りにこのことが主観的現状変更にあたるとしても、執行吏の保管に対して債務者の使用を許す仮処分の場合に、執行吏が現状変更を理由として債務者の使用を禁止して立退かしめる根拠は全くなく、いわゆる点検排除は違法である。

したがつて前記違法執行を許さない旨の裁判を求める。

二、本件書類によれば本件仮処分をめぐつて次の事実が認められる。

(一)  相手方田中清堯は別紙物件目録記載土地の所有者として、同土地の所有権に基く土地明渡請求権を被保全権利として、当庁昭和三四年(ヨ)第六四六四号仮処分をもつて申立外柏熊恒、同金仁玉を債務者とする別紙物件目録記載建物(三)につき占有移転禁止仮処分を得て同年一一月一〇日に執行し、当庁昭和三四年(ヨ)第七三七七号仮処分をもつて申立外金仁玉を債務者とする右土地の占有移転禁止仮処分を得て同三五年四月七日に執行し、右執行に際し本件建物(一)(二)が存在して本件申立人らが占有していたため本件建物(一)(二)部分の執行が不能であつたので、当庁昭和三五年(ヨ)第三三三二号仮処分をもつて申立人四名を債務者とする「債務者らの別紙物件目録(一)(二)建物に対する占有を解いて、債権者の委任した東京地方裁判所執行吏に、その保管を命ずる。執行吏は、現状を変更しないことを条件として債務者等にその使用を許さなければならない。但し、この場合においては、執行吏は、その保管に係ることを公示するため、適当な方法をとるべく、債務者等は、この占有を他人に移転し、または、占有名義を変更してはならない」との仮処分を得て、同年五月二七日その執行をなし、更に同年八月二七日、および同年一〇月二八日に点検をした結果本件建物(一)(二)に申立人らが不在で申立外人が留守番と称してして居住していたので、当庁昭和三五年(ヨ)第七六〇一号仮処分をもつて、申立人四名および申立外白川太郎を債務者とする本件建物(一)(二)を執行吏の保管とする旨の仮処分を得て、同年一二月二二日にその執行をなしたこと、右執行に際し、昭和三五年(ヨ)第三三三二号仮処分の点検の名において申立人四名の本件建物(一)(二)の使用をさせない処分がなされていることその後昭和三八年一月九日右昭和三五年(ヨ)第七六〇一号仮処分の取下がなされたことが認められる。

(二)  右のような経緯で、申立人四名に対する本件建物からの排除は昭和三五年(ヨ)第七六〇一号仮処分の執行と、昭和三五年(ヨ)第三三三二号の執行とが競合する形で行われたものであつて、そのことは仮処分執行調書と点検調書との記載によつて認められ、点検調書には、「本日排除断行ヲ為ス旨ヲ宣シ、……所在物件全部ヲ目的物外ニ搬出シ遺留品ナク全クノ空家ト為シ完全ニ目的物内ヨリ債務者並ニ第三者等ヲ排除シ各出入口ヲ閑鎖釘付抜打トシ封印ヲ施シ不使用状態ト為シ」と記載されており、申立人らの任意退去後に申立外白川太郎に対する占有排除をしたとも、昭和三五年(ヨ)第七六〇一号仮処分執行により空家となつた建物に対する点検ともされていないことによつて明らかである。

三、前記昭和三五年(ヨ)第三三三二号仮処分決定の如き執行吏に保管させ現状を変更しないことを条件として、債務者に使用させる旨の仮処分における執行吏の権限については説が分れ、公法上の占有者として、ないしは仮処分中の授権決定あるものとして、執行吏に強制退去権を与えたものとする説と、不動産強制管理における管理人の地位に類似する保管人にとどまり、強制退去をさせるには不作為命令違反による執行命令を要するかないしは新らたな退去を命ずる仮処分を要するとの説とが対立している。当裁判所は一応後説を採ることとする(その理由については東京高等裁判所昭和三六年(ラ)第七二七号決定を援用する)。

したがつて昭和三五年一二月二二日に昭和三五年(ヨ)第三三三二号仮処分の点検執行としてなされた申立人らの本件建物(一)(二)に対する占有を解く処分はこれを許すべきものでないことになる。そこで申立人らの本件申立を認容し、訴訟費用について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり決定する。

昭和三八年一一月二九日

東京地方裁判所民事第九部

裁判官 花 田 政 道

物件目録(省略)

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